FC2ブログ

You are not Logged in! Log in to check your messages.

Check todays hot topics

Search for Services:

Please Log in

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

猫とビールと我輩と4

この白猫は客たちから猫ジイと呼ばれていた。「面接をする」と

カウンターの奥の個室に通されるとき音子は客たちの声を聞いていた。聞きながら

自分自身の環境適応能力の高さに驚いていた。いや、もしかしたら頭のヒューズが

飛んでしまったのかもしれない。何しろ相手は猫だ。二本足で歩いておまけに喋る。

音子の人生でそれは空想の世界の話であって、現実の世界で起きることはもちろん

一度もなかった。

個室はほとんど商品在庫に場所をとられており、2脚の椅子と机(もちろん小さな

猫サイズ)くらいしかスペースはなかった。音子はその椅子を勧められたが丁寧に

お断りした。人が座れるとは思えなかったし、自分が座ってもし壊れでもしたら

乙女心に深い傷が残る。猫ジイのほうは椅子に深く腰掛け熱心に音子を

見つめていた。

「面接を始める前にもう一度確認するが、お嬢ちゃん本当にあの広告を見て

この店に来たんじゃな?」その問いかけに音子はうなずく。

「そうか。実はのぅ、あの広告は普通人間には見えないんじゃよ。広告というよりも

貼ってある掲示板そのものが見えはしないんじゃ」

「 え?けど普通に私には見えていましたよ?」

「友達に聞いてみなさい。そんなものどこにもありはしないと白い目で見られる

のがおちじゃよ」

自慢ではないが嘘を見破るのが音子は自分でも得意だと思っている。いつもは人で

猫では今回が初めてだが、それでも猫ジイが嘘をついているとは思えなかった。

「それじゃあ私、どうして見えたんでしょうか?」

「わからん。だがある意味では才能かもしれんの。それにお嬢ちゃんが最初というわけ

でもない。あれは確かわしがこの店の店長になりたてのことじゃから・・・50年くらい

前かの。そのときに一人やって来たことがあったよ」

「50年前!?そんな昔に!?」50年前といったら大学創立してまだ間もない頃だ。

「あれ、けど猫の寿命って・・・」

「猫を舐めるんでないわい」猫ジイはニヤリと笑みを浮かべている。

深く考えるのはよそう、これ以上の不思議は音子の頭をいたずらに混乱させるだけだ。

「けどどうして大学の敷地になんかに掲示板を置いたんですか?人には見えないのに」

「大学はいい。車は走らないし、弁当の余りをワシら猫に与えてくれる。だから食べ物にも

困らん。野良猫が多いの、気付かんかったのか?そんなわけであの掲示板は本来

ヒト用のものではなく、ネコ用のものなんじゃ」

そういえば猫、たしかに多く住み着いていた気がする。

「話が脱線してしまったの。とにかく面接を始めるとしよう。なぁに、お嬢ちゃんがヒトであっても

かまいやせんよ。ワシはそんな小さいことにはこだわらん。とにかく今は人手不足での。

困っていたんじゃ」

小さいことなのかしら。音子の常識からすると考えられないことだったので、そこは聞かなかった

ことにした。

猫ジイの話によると最近まで若いオス猫が働いていたそうなのだが、ある日ぱたりと姿を

見せなくなってしまったらしい。「猫の習性みたいなものじゃからしょうがない」 猫ジイは

笑っていた。とにかくそのオス猫がいなくなってしまったことで、一匹で店をまわさなければ

ならなくなってしまい、若いころならまだしもこの年齢ではさすがに賑わう時間帯は

厳しいとのことらしい。そこであの広告を貼り出したという。

面接は働ける曜日、時間、経験など基本的なことしか聞かれなかった。まるで人間がする

本当(?)の面接のようだった。

音子が条件を満たしていることを確認すると、猫ジイは採用と即決した。

「いいんですか。こんなに早く決めちゃって。私としては嬉しいですけど他に希望する猫?

が現れたらどうするんですか?」

「来やせんよ。猫という生き物はの、基本的に働くことが大嫌いなんじゃ。だからアルバイト募集の

広告もまったくといっていいほど期待していなかった。だが、ヒトであるお嬢ちゃんが

見つけて来てくれた。これも何かの縁じゃろうて。だからお嬢ちゃんでいいんじゃよ。それに

言ったろ?人手不足で困ってるんじゃよ。一刻も早く手伝いが欲しいんじゃ。のんびり待ってなど

おれんよ」

面接が終わり今日はこれで帰ることになった。

「あの、どうやって帰ればいいんですか?」

音子は心配になってきた。そうだ、自分は大穴から落ちてきたのだ。どうやって来られたかも

わからないのに帰り道がわかるわけがない。音子の心配をよそに猫ジイはあっけらかんと

している。

「心配することはない。ほら、ここから帰りなさい」

そう言うと猫ジイは店にある一つの扉を指差した。

「ここからもとの場所に帰れるから安心しなさい。そして来るときはまたあの場所に行きなさい。

今度はお嬢ちゃんにも入り口が見えておるはずじゃから」

音子が緊張しながらその扉を開いてみると、真っ暗だった。何も見えない。音子が不安そうに

猫ジイに振りかえると、猫ジイは「大丈夫じゃよ」と言うようにうなずいていた。

「それじゃあ失礼します」思い切って暗闇に足を踏み出す。落ちた。またしても音子は落ちて

いく。

「落ちてばっかりね、私。それにしても落ちてきたのにまた落ちるなんて本当に帰れるのかな」

すでに驚愕な出来事をたった一日で何度も経験した音子にはこのくらいのことでは

(ただの麻痺といえるのかもしれないが)驚かなくなってしまっていた。

最初に落ちたときは恐怖と混乱しかなかったが、今回は違う。多少の不安はあるが落下中

これからのことを思うと音子はワクワクしていた。どうやら自分はあの不思議な場所に

魅了されてしまったらしい。早くあそこで働いてみたい!



参加しています
人気ブログランキング

スポンサーサイト
スポンサーサイト

猫とビールと我輩と3

店内の客たちは天井から突然降ってきた音子に驚き、目を丸くしながら

音子に視線を注いでいた。

客たちは驚いていた。しかし、音子の驚きは客たちのそれをはるかに上回った。

猫。猫。猫。

客たちが皆猫なのだ。

猫が椅子に座り前足(?)で各々酒を手にしている。まるで人のように。

やはり夢としか思えなかった。思えなかったが、お尻の痛みが「これは夢じゃないよ。」と

音子に告げている。

「えらいことに来ちゃったかも・・・」音子が少しずつ落ち着きを取り戻していると、

一匹の年老いた白い猫が「歩いて」近づいてきた。体毛で目が見えない。

「いらっしゃい、人のお客さんなんて珍しい。なんのようだい?

お客さんならワシの店は人だろう猫だろうが歓迎するよ。」

口調、声のトーンからしてどうやらこの猫はオス、おじいちゃんらしい。

音子はぼんやりとその白猫の話を聞いていると「あれ?」 と感じた。

そして一気に頭がはっきりと鮮明になった。そして頭が追いつくことができなかった

驚きと疑問が次々と言葉となってあふれだした。

「しゃ、喋った!猫が喋ってる!ていうか立ってるし!二本足で!

なに?どうなってるの?ここどこ!?どこなの!?」

早口でまくし立てる。混乱がますます混乱を呼んでしまい、

音子はもう泣き出しそうになってしまっていた。

「せっかちなお客さんじゃのう。そんなに一度に質問されても追いつけんよ。

少し落ちつきなさいて。ほれ、これでも飲みなさい。」

そう言うと白猫は冷蔵庫から一杯のミルクを取り出し、

「これはサービスじゃよ。お代は取らないから」と差し出してくれた。

音子は「何で冷蔵庫なんかあるのよ」と頭の片隅で思いながらも

ありがたく頂戴し飲み干した。

音子が落ち着くまで白猫は何も言わずに待ってくれていた。様子を眺めて

いた客の猫たちはもう自分たちの話に戻っていた。

目が赤く充血し、少し鼻もぐずついてはいたが音子はだいぶ落ち着きだし、

それを確認してから白猫は話し始めた。

「ここは猫たちの集まる酒場じゃよ。だから、お客さんも猫だし、オーナーの

ワシもこの通り猫じゃ。だからほとんど人は来やせん。まぁごくたまにお前さんのように

人も来るがの。だいたいは迷いこんでここにやってくるクチじゃよ。

ここに来るにはいろいろ入り口があるんでの。普通、人には見えんのだがたまに

その入り口に入りこんでしまうのじゃ。」白猫は話を続ける。「安心しなさい。

帰れなくなるなんてこはありゃせんから。それに初めは皆お嬢ちゃんのように混乱して

おったが、皆この店を存分に楽しんでから帰っていっておるよ。だからお嬢ちゃんも

楽しんでいっておくれ。なに、猫たちが集まる店じゃ。お金のことは心配しなさんな。

それでは改めて。いらっしゃいませ。人間のお客さん。」

おじいちゃん猫は優しく笑いかけた。

ゆっくり話してくれたおかげでまだ混乱はしているし、納得できないことが多々ありは

するが、音子は落ち着きを取り戻していた。そしておずおずと白猫に尋ねた。

「すみません、確かに私迷い込んじゃったのかもしれません。だけど私たぶん

客としてこのお店に来たんじゃないと思うんです。実は私アルバイトの求人

広告を見て、そこに書いてあった集合場所に行ったんです。そしたら突然

大穴が現れてそこに落っこちちゃって。それでこのお店に着いたんです。

だからたぶん私がアルバイトの面接を受けようとしたお店って、もしかしたら

このお店のことじゃなんじゃないでしょうか?」

客じゃなく、アルバイトつまり従業員希望として。

「お嬢ちゃん、あの広告が見えたのかね!」

白猫の目は体毛に覆われて見ることはできない。できないが、

それでも驚いている表情を読み取ることは容易だった。


参加しています
人気ブログランキング

猫とビールと我輩と2

広告には連絡先などは書かれておらず、集合場所と日時だけが右隅に

ひっそりと書かれていた。

集合場所は大学の近くにそびえている大きな木の下。大樹といっていいだろう。

この町1番の大木だ。だから入学間もないまだこのあたりの地図が

頭に入りきっていない音子にでもその場所はすぐにわかることができた。

「それにしても居酒屋のバイトの面接なのに変な集合場所だよね、

普通自分の店でするものじゃないのかな?お店、そんなに分かりにくい

場所にあるのかな?それとも超狭いとか?」

音子は集合時間の10分前に木の下に着いたが、そこには誰もいなかった。

少し早すぎた、まぁいずれ誰かくるだろうと思っていた。

しかし、集合時間を過ぎても希望者も、居酒屋の店員らしき人も現れはしなかった。

「時間まちがえたかなぁ。」 少し心配になり、音子は辺りを見渡した。

そのときふと、音子の身体が中に浮いた。布団で寝ているとき身体が突然落ちる

感覚。それに近い。

何の前触れも無く突然木の周り一面に大穴が口を開けた。

音子は暗闇に吸い込まれていった。

遊園地にある落下系のアトラクションでも落下している時間はせいぜい10秒程度。

それどころの話ではない。もう1分くらいは落ち続けているかもしれない。

落ちた瞬間は自分の身に何が起きているのかまったく理解することが

できなかった音子でも、これだけ長い時間落ちていると真っ白だった

頭の中にも色が生まれてくる。

「何?どうなってるの?こんなことありえないし・・・そうか、これは夢ね・・・。」

と、そのとき。激突。お尻をしこたまぶつけた。「いった~。けど痛いってことは

これは夢じゃないのね。」痛みのせいだろうか、自分でも妙に冷静ねと

音子はズキズキするお尻をさすりながら涙目になった目を開いた。

今日は信じられないことが次々と起こる日らしい。

自分の目を疑いたくなる。

落ちてきたはずなのに、目の前では居酒屋が店を開いていた。


参加しています
人気ブログランキング

猫とビールと我輩と1

「アルバイト募集中!経験不問・週2日~OK・昇給制 

アットホームな私たちのお店で一緒に働きましょう!」

大学の掲示板をぼんやりと眺めていた桜井音子(ねこ)の目に

そのアルバイト募集の広告は留まった。

「へ~、いいじゃん!」

入学して3ヶ月、そろそろアルバイトをはじめてみたいなと思っていた

音子にとってこの条件はなかなか魅力的であった。


「で、仕事はどんな内容なの?」

うどんをすすりながら友人の高田あゆみが尋ねてきた。

「えっと、個人経営の居酒屋みたい。」

「大丈夫なのそれ?怪しくない?」

音子と高田は語学の授業で席が隣同士であったことから仲良くなった、

音子にとって大学での友人第1号だ。今もこうして二人学食で食事をしている。

「多分大丈夫だと思うよ。それに忙しそうな雰囲気も広告見るかぎり

伝わってこなかったし。私アルバイトって初めてだからさ。チェーン店みたいに

明らかに忙しそうなところよりもいいと思うんだよね。

まぁ違うな、と思ったらまた違うアルバイト探すことにするよ。

それじゃあ私次も授業あるから。」

そう言ってつき見そばをかき込んで音子は席を立った。

「そんな掲示板なんてあったかな。」次のコマに授業がなかった高田は

音子が言っていた掲示板に向かって歩いていた。音子にああは言ったが、

大学が紹介しているアルバイトなら確かに安心できるし、よさそうな物件が

あったら自分もやってみようかなと思っていた。


「音子の奴、どこのこと言ったのよ。」

高田は不満げに呟いた。

音子に場所は文学部掲示板の隣と言われたが、

そこに音子のアルバイトの広告はおろか掲示板そのものがなかった。

校舎の壁がそびえ立つだけで、「はじめからそんなものはなかったよ。」

と言われているようだった。


参加しています
人気ブログランキング
« | HOME |  »
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。