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初めて

 僕、浅川達郎の川原岬への第一印象は「なんと豪快な人だ」の一言に尽きる。
 
 「名前、川つながりだね。趣味は?料理好きなの!?あたしも!うん、君のこと気に入った!あたしと付き合おう!」
 ここから岬先輩の僕への猛アタックが始まった。勢いのありすぎる岬先輩に対して、僕ときたら人生引っ込み思案で生きてきた。いつも「僕でいいんですか」と心の中で首を捻っていた。
 現在の僕らは恋人同士として付き合っている。もちろん岬先輩のことが大好きだ。だけど始まりの形は、完全に僕が岬先輩に押し負けて半ば諦めからの付き合いだった。
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サマーウォーズその後(二次創作)

 「よっ、有名人!」
 夏休みが明けたばかりの朝の教室、小磯健二はOZの事件以来すっかり有名人になってしまった。今日もこうして教室で友人にからかわれていた。
 「よしてよ、何度も言ってるけど凄かったのは僕じゃなくて夏希先輩とそのご親戚の方たちなんだってば」
 「だけどその当人たちが健二のおかげだって言ってるんだぜ」
 「僕はたまたまその場に居合わせただけだし、暗号が解けたのも運が良かったんだよ。それに夏希先輩の叔父さんたちに協力してもらわなかったら本当に何もできなかっんだよ」
 「またまたぁ、健二様ってば謙遜しちゃって。夏希先輩の許嫁さん!」
 「やめてよ。本当に夏希先輩と僕はそんなんじゃないんだから」
 篠原夏希のことについては何度からかわれても健二は慣れることができなかった。どうしても赤面していまう。そこを友人に面白がられてしまい、この手のからかいが終わることがない。
 「小磯、お客さん」別の級友がクラスのドアを指さす。
 「おっ、噂をすれば。お嫁さんの登場だぜ」
 友人の話を最後まで耳に入れないうちに健二は席を離れていた。
 「健二君おはよー」
 「夏希先輩っ。おはようございます。こんなところまで一体どうしたんですか?」
 「健二君、またバイト頼んでもいい?」
 あの日から夏希の健二への頼み事は全てバイトという呼び名になっていた。
 「もちろんです。何でも言ってください」
 「ありがとう!それじゃあ放課後物理部の部室にいてね。剣道終わったら迎えに行くから」
 「わかりました」
 「遅くなるかもしれないけど待っててね」
 「はいっ」
 廊下を去っていく夏希に健二が見とれていると、夏希に友人らしい人が駆け寄って来た。
 「ねぇ夏希、あんなモヤシみたいな奴のどこがいいの?」
 健二にわざと聞こえるようにしたボリュームだ。お前と夏希は釣り合わないと此見よがしに言れているようで健二は縮こまってしまった。
 「何度目になるかわからないほど言ってるけど健二君はカッコいいんだよ!」
 夏希先輩、声大きいですよ・・・・・・。夏希の声は廊下全体に響いていた。健二は恥ずかしさもあったが、嬉しくて飛び上がりそうだった。そして、夏希に注意された言葉を思い出した。
 「健二君はあたしたちの命と、おばあちゃんの家を守ってくれたんだよ。誇れることをしたんだからもっと自分に自信を持って。もうオドオドする必要なんてないよ」


 健二と夏希一族が有名になったのは、今から少し遡り、事件後すぐのまだまだ暑い夏休みの最中だった。健二がまだ長野の陣内家に滞在している間にOZ事件について取材が殺到し、特集までもが組まれ放送された(何しろOZを救っただけでなく、ラブマシーン産みの親の侘助やキングカズマの佳主馬までもが事件当時その場に居合わせ、果ては衛生が落下した場所であるのだから)。タイトルは「OZを救った日本の旧家・陣内家」ひねりも何もないものだった。
 その中のインタビューが問題だった。
 「小磯君は陣内家とどういったご関係なんですか?」質問されたとき健二は焦った。
 「えっと・・・・・・あのですね・・・・・・」
 その時である。
 「こいつぁ夏希の許嫁よぉ!」
 「万助おじさん!?」
 健二がまごついている間に横から叔父さんが叫んだ。生放送、しかも全国放送だった。
 「別にいいじゃん、ホントのことなんだし」とは佳主馬の談。夏希に交際を正式に申し込んだわけではない健二にしてみれば、いいわけがなかった。ちなみに佳主馬は顔バレしたことにより「キングカズマ本人萌え」と佳主馬本人のファンクラブが誕生してしまった。本人は「くだらない」と一蹴している。
 こうして健二と夏希の関係は多くの誤解を残したまま一瞬にして日本中に知れ渡った。
 


 「みんな健二君のこと誤解しすぎ。ガリ勉野郎って言われたんだよ!頭きちゃう。そんなことないよね」
 「あながち間違ってないかもしれないです・・・・・・」
 物理部部室、部活が終わった夏希は健二に向かいプリプリ怒っていた。
 「あの時のカッコいい健二君を見てないからみんな言いたい放題なんだよ」
 「夏希先輩にそう言ってもらえるだけで僕は嬉しいです」ぼそぼそと健二は呟く。
 「あの~、俺もいるんですけど」
 二人に忘れられている佐久間がごちそうさまですとため息をつく。
 「そうだ。佐久間君、健二君ってどんなこと好きなの?本人は数学しかないって言っててさー」
 「そうですね~。・・・・・・あれ?俺も最近はコイツからは数学オリンピックの話ししか聞いてないですね」
 「あたし、健二君のこと全然知らない」夏希はガクッと肩を落とした。
 「いや、夏希先輩が知らないのは当然ですよ。あれからまだ全然時間経っていないですし」
 「確かにそうだね、これから知っていけばいっか。健二君いろいろ教えてね」そう言えば、と夏希は続けた。「あれ?だけど健二君はあたしのこといろいろ知ってるよね?」
 「こいつ、入学してからずっと夏希先輩のファンだったんですよ」ニヤリと笑いながら佐久間が告げ口した。
 「佐久間っ!」瞬時に顔が熱くなった。「お前もだろ!」
 言い訳をするのをすっかり忘れてしまった。これではストーカーみたいではないか。
 二人のやりとりを観ていた夏希は「・・・・・・嬉しいな」とぽつりと漏らした。
 「そうだ。夏希先輩、僕にバイト頼みたいって言ってましたよね。帰りながら話しましょう」
 健二は急いで部室から離れたかった。これ以上佐久間に何か吹き込まれてはかなわない。ドアを閉める間際、佐久間がニヤニヤしていたことに気付いた。佐久間め、覚えてろよ。
 

 「それで夏希先輩、バイトって何ですか?」
 二年生と三年生、学年で場所の違うげた箱から急いで靴をはきかえ健二は夏希の場所へ戻り訊いた。
 「うん。実はね、後輩に頼むのも変なんだけど勉強教えてくれない?数学なんだけどさ、今回やばいんだ。ごめんね?また数学のことで。さっき言ったばかりなのにね」
 「いいんですよ。僕ホントに数学しかできませんから。それに多分教えてあげられると思います」
 「ホントに!?ありがと~。じゃあさ、今度の週末部活休みだからあたしの家で教えてもらっていいかな?」
 夏希先輩の家。健二は固まった。頭の中で様々な想像が駆け抜けて行く。
 「大丈夫。お父さんもお母さんも健二君のこと知ってるから。おばあちゃんの家で一度会ってるよね?」
 夏希の両親は事件の後に陣内家に到着し、そこで健二はあ出会っていた。
 そうだよな。ご両親いるに決まってるよな・・・・・・。健二は心中でため息をついた。
 「また明日ね」
 「はい。さようなら」
 たとえ両親がいるとしても夏希先輩の家、夏希先輩の部屋に招待されたのだ。健二は「にへっ」とした顔のまま夏希の後ろ姿が見えなくなるまでその場に突っ立っていた。


 ようやく待ちに待った週末になった。今日までの授業の内容は健二の頭に全く入らなかった。頭に描くのは夏希のことばかりだった。
 夏希からもらった地図を頼りに健二は自転車を走らせた。走らせながら、健二の家と夏希の家との距離がそれほど離れていないことに驚き、さらに浮かれた。 
 指定された時間より少しばかり早く夏希の家に到着してしまった。どうやら自分でも気が付かないうちに足のペースが速くなっていたらしい。汗を拭き、呼吸を整え、健二は胸の高鳴りを抑え呼び鈴を押した。
 「はーい」
 インターホン越しに機械まじりの声がする夏希が出た。
 「あの、小磯です」
 「はーい、ちょっと待ってね」少し待つとガチャリとドアが開き、夏希が顔を覗かせた。「いらっしゃーい、早かったね。ささ、あがって」
 「お、おじゃまします・・・・・・」
 手招きされた健二は怖ず怖ずと中へ入った。ここが夏希先輩のお家か・・・・・・。
 「お、健二君いらっしゃい」夏希の父が声をかけてきた。
 「お、おじゃまします」
 健二がそう言うと、今度は夏希の母がリビングから顔を出し近づいてきた。
 「安心してね。私とお父さんはすぐに出かけるから。お邪魔虫にはりたくないから」フフフッと囁いた。
 「・・・・・・!!」
 実の母がそれを言うというのか。陣内家とは皆このような気質なのかと健二は失礼ながら呆れた。
 「じゃあお母さん、あたしたち部屋行くから」
 健二君、こっち。と夏希は自室へ案内した。――ここが夢にまで見た夏希先輩の部屋・・・・・・!
 「適当に座って待ってて、お茶とってくるから」
 「いえっ、お気遣いなく」
 行ってしまった。・・・・・・夏希先輩の部屋かぁ、別段変わったところはないんだな。いかにも女の子の部屋、というパターンは先輩の性格からして初めから想定してはいなかったけど。
 健二がキョロキョロしていると夏希が入ってきた。
 「お母さんたち出かけちゃったみたい」そう言ってから夏希は健二の奇行に気付いた。「あんまりじろじろ見ないでね、恥ずかしいから」
 「す、すみません。つい」
 「謝らなくてもいいよ。ただ男の子呼ぶことなんて今までなかったからさ」
 夏希先輩、その発言は勘違いしちゃいます!変な期待起こしちゃいます!健二は顔が暑くなるのを感じ、もらったお茶を慌てて飲んだ。
 「それで夏希先輩、わからないところってどこですか?」そうだ、数学を教えるために呼ばれたのだった。浮かれていて忘れてた。
 「まぁ、全部かな?あたし数学は特に苦手で。受験で数学使うのはセンター試験までだから、健二君も習ってる範囲だと思うから」
 これ。と夏希が健二に問題集を見せた。
 「・・・・・・大丈夫だと思います。これなら僕もわかります」
 「ホント!?助かった~、それじゃあよろしくお願いします」


 「ちょっと休憩しよっか」
 「夏希先輩、まだ三十分も経ってないですよ」
 「だって~。疲れたよ~」
 「すみません、僕がもっと上手く教えられたら」
 「そういう意味じゃないよ。健二君の説明は先生より分かりやすいよ。だけどそれでも数学は苦手だからね、肩凝っちゃう。だから、休憩」
 有無を言わせぬ口振で、夏希はノートを閉じた。
 

 「ねえ、侘助おじさんと連絡とってるんだって?」
 健二が問題集をペラペラめくっていると夏希が訊いてきた。やはり侘助叔父さんのことは気になるのだろうか。
 「ええ、侘助さんアメリカに帰っちゃいましたけどメールのやりとりはときどきしてます」
 健二は侘助に数学のセンスを気に入られ、偶にだが連絡をする関係になっていた。
 「お元気そうでしたよ。最近は新しい研究に取り組み始めたって言ってました」
 ――「夏希をよろしく頼む」と言われたなんて夏希本人に言える訳がない。
 「そっか。侘助おじさん元気なんだ・・・・・・」
 健二の心がチクリと痛む。夏希先輩はやっぱり侘助さんのことが好きなのかな。
 しゅんとした健二に気付き、夏希は慌てた。
 「そういえばさ!夏休みにあたしがバイト頼もうとしたとき真っ先に物理部に向かったんだよね!おばあちゃんたちに説明した人って超エリートだったから!頭良いイコール物理部かなって!そしたらそこには健二君がいてさ。もしかしたら運命だったのかもしれないね!」
 「その人物像って侘助さんがイメージなんですよね・・・・・・」
 僕って最低だ。せっかく夏希先輩が元気づけようとしてくれているのに嫌みで返すなんて。・・・・・・侘助さんも昔物理部だったのかな。嫌な考えが次々に浮かんできてしまう。
 「――健二君、もっと自信持ってよ。たしかに侘助おじさんのこと昔憧れてたよ。だけど今は違う。そうじゃなきゃ健二君にキスなんてしないよ」
 強烈だった。茹で蛸健二の出来上がりだ。まずい、思い出しただけでまた鼻血が吹き出しそうだ。
 「すみません先輩、変なこと言って・・・・・・」
 「気にしない気にしない」照れ隠しなのか先輩はワッハッハと笑った。
 ――こういうところも夏希先輩の素敵なところだ。
 「そういえば健二君は進路どうするの?あたしは一応大学までは進学するつもりだけど。健二君はまだ二年生だけどやっぱり学者とかになりたいの?」
 「自分でも信じられないんですけど、大学卒業してからでいいからウチに来てくれとこの前OZの方に誘われてしまいました・・・・・・」
 「それってスカウト!?すごい!!OZって世界的大企業だよね!?」
 「ええ、だけど僕ホントに数学しかできないし・・・・・・、正直進路なんてまだ全然わからないです」
 「時間はあるし、今のうちに目一杯悩むといいよ。年長者からのアドバイスね」
 数学オリンピックという大きな目標を失った健二に夏希の言葉は響き、進路という巨大な迷路に迷い込んでしまった健二の気を楽にさせてくれた。
 「ねぇ健二君、花札しない?これ終わったらまた勉強するからさ」
 「いいですよ。僕強くなりましたから油断すると夏希先輩でも痛い目見ますよ」
 花札は現在日本中で流行している。健二たちの学校も例に漏れず、休み時間は教室の至る所で花札が行われていた。賭さえしなければ、と教師たちも目をつぶっている。
 「それじゃあ何賭ける?」
 「え?」
 「賭でもしなきゃ面白くないでしょ?」
 やっぱり似るんだな。栄おばあさんも同じようなことを言っていたことを健二は思い出した。そのときの勝負は健二が負け、――夏希をよろしくと頼まれた。
 「そうですね・・・・・・。それじゃあ・・・・・・」
 「なになに?」夏希が急かす。
 「えっと、その・・・・・・あの・・・・・・僕が勝ったら、だ、代役じゃなくて、僕を夏希先輩の本物の彼氏にしてください!」
 「それって・・・・・・夏休みのバイトのこと?フィアンセ役の」
 「そ、そうですっ!」
 「・・・・・・ねぇ、フィアンセってことは、それってもしかしてプロポーズ?」
 夏希の顔も赤い。突然のことで驚いているようだ。
 「えっ!?あっ!えっと」
 そこまで重大に考えていなかったので健二は狼狽した。
 「わかった。そっちの賭はそれね。それじゃああたしが賭けるのは・・・・・・あたしが勝ったら、あたしを健二君の彼女にして」
 「夏希先輩、それじゃ賭けにならないですよ・・・・・・」
 カラカラになった喉からは、か細い声しか出なかった。恥ずかしさと嬉しさで死んでしまいそうだ。
 「あのときの健二君、本当にカッコよかった。あたし参っちゃったもん」へへへっと夏希は照れ笑いを浮かべている。「だから健二君はもっと自分に自信を持って。君ならなんだってできるよ」
 健二はハッとなった。
 「似たようなこと栄おばあさんからも言われました。あんたならできるよ、って」
 栄を思い出してしまったのだろうか。夏希の瞳が潤んだ。
 「そっか。それならますます大丈夫!自信持って、これからはあたしのカレシなんだから」
 「はいっ、がんばります!あの、よろしくお願いします」
 「こちらこそふつつか者ですが、よろしくお願いします」
 佐久間ゴメン。夏はスイカと花火で十分って言ったけど、あれ嘘だ。やっぱり夏といえばスイカと花火と……夏希先輩だ。


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応援席

 「どうして言わなかったんだよ?逃すのこれで何度目だ?」
 榎本は友人の沖のあまりのヘタレっぷりに呆れ半分怒り半分でジョッキに残っていたビールを一気に飲み干した。
 「せっかく美歩と隣になれるように仕組んだのにチャンス潰しやがって」
 「だからごめんって。もう勘弁してくれよ、僕なりに頑張ったんだよ」
 
 

予感

 嫌な予感は始めからしていた。
 京子と付き合った当初から待ち合わせにずっと使い続けていた二人にとって特別な喫茶店に呼ばれ、その当たって欲しくなかった予感は、そこに座る京子の顔を見て確信に変わらざるをえなかった。・・・・・・振られるな。
 「あのさ・・・・・・」
 京子の言いずらそうな表情。口がもごもご動いている。
 「待って、なんとなくわかった。それで・・・・・・何で?」
 「・・・・・・ほかに好きな人が出来たの」
 うわ~っ、よくあるパターンだけどいざ自分がその立場になるとキツイ。すでに背中は嫌な汗でびっしょりだ。
 変わることなく注文していたアイスコーヒーをすすり、一気にまくし立てた。
 「相手誰」
 「いつから」
 「もうだめか?」
 「俺のどこが駄目だったの?」
 「直すから」
 「本当にもう無理?」
 「頼むよ」
 カッコ悪い。潔くない。声も震えだしてきた。
 京子は質問一つひとつに対して丁寧に答えてくれた。その一つひとつが京子の中に自分の居場所がもうどこにもないことを痛いくらいに理解させる。
 兆候はあった。一月ほど前からメールのやりとりは減り、電話ももちろん減った。デート?何それ、おいしいの?・・・・・・お泊まりなんて言わずもがな、だ。
 それでもその時は「倦怠期というやつか」と勝手に自分を納得させ行動を起こさなかった。もし何かサプライズでも用意していれば京子の気持ちは離れなかったのだろうか。全ては今更。京子に訊るはずがない。京子と話している間、後悔は絶え間なく続いた。
 

 たとえ別れることに全然まったく納得していないとしても、京子の気持ちを今ここで変えられそうになかった。いつのまに溝はここまで深まってしまったのだろうか。不承不承にうなづき店を出た。しかし、京子との関係が戻ることはできないだろうと心の何処かが呟いていた。

 
 家に帰る頃には悲しみよりも怒りの方が勝っていた。冷蔵庫の酒を片っ端から空け、完全に出来上がった頃思い出した。マズイ、泣き上戸だった。
 怒りの次にはまたしても悲しみが涙と共に嵐のようにやてきた。一人暮らしをいいことに思い切り声を上げて泣いた。カッコ悪ぃな。想像する男の理想像にはほど遠い。
 涙と一緒に京子との思い出も溢れてきた。
 告白・・・京子からのメールだった。自分からしようと決めていたのに、不本意。
 初めてのデート・・・水族館。
 初めてのキス・・・これも不本意。居酒屋の帰り、酔った勢い。
 初めての夜・・・こちらの家。ついに卒業した。
 ほとんど覚えている。ちくしょう、「ずっと大好きだよ」って言ってくれたくせに。涙が溢れてくる、止まらない。
 突然ドンドンと叩く音に一瞬ドキリとしたが、単なるお隣さんからの苦情だった。京子が追いかけてきたわけじゃない。これをきっかけに涙と鼻水は止まったが、すでに新品のティッシュは半分ほど減ってしまっていた。おまけにゴミ箱にはことごとく外れていた。
 一方的に別れを切り出されるのがこれほど堪えるとは思いもしなかった。というか自分がそうなるとは夢にも見なかった。キツイ。
 

 どん底にいるというのに腹が減った。さらに食後は眠くまでなってしまった。呆れはしたが、失恋程度では身体はどうこうなるものではないらしい。ガッカリしたが、安心もした。
 この頃には京子への復縁の思いは「ヨリを戻したいって泣きついてきても遅いからな」と負け惜しみのような意地になっていた(これ以上傷つきたくない自分を護るため強引に変えたのかもしれない)。


 京子が笑っている。ーーあぁ、夢だ。
 夢の中で夢と解るのは初めての体験だった。
 振った相手の夢の中にその日のうちに現れるなんて図々しい奴だ。しかも満面の笑みで。
 この笑顔が違う男に向けられるなんて・・・・・・。まぁいい。今は、この夢の中では京子の笑顔は自分だけに向けられているのだから。
 そう思ってしまった夢の自分に腹が立ちつつ、これは引きずる、消耗戦になりそうだ。と、寝起きの頭ながらひしひしと感じていた。



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あと七日

 「こんちわー」
 十二月、大学の授業をサボりにサボった俺が部室に顔を出したのは一週間ぶりだった。
 「あ、先輩。久しぶりですね、何してたんですか?冬休みはまだ先ですよ」
 「なんか寒くて外出る気しなかった」
 「酷すぎますね。その生活、親が知ったら泣きますよ」
 「先輩に向かってズバズバと……。ところで昼休みなのに森崎一人なの?」
 「そうなんですよ。先輩みたいに寒くて大学サボるなんてはずないんですけどね」
 心で小さくガッツポーズ。みんなナイスだ、このまま来るなよ。
 森崎麻美。一学年下の後輩。冷たいことばかり言い放つのは、たぶん、いや訂正する。絶対に俺のせいだ。からかいすぎた。その森崎がなぜだかわからないが夏頃から無性に気になる存在になっていった。答えを知っている本音の声には聞こえないふりを貫き通し、冬になった。
 「そっか。森崎一人なのか」
 「しばらくしたら誰か来ますよ。わたし一人ですみませんね」
 「いや、嫌じゃないよ。ただ森崎と二人だと未だになぜか緊張しちゃうんだよな」
 森崎は鼻で笑った。
 「いやいやいや。ちょっと森崎、鼻で笑うとかナシだから。今の笑うところじゃない」
 「だって。よくそんな思ってもないこと言えますよね。先輩いつも適当すぎますよ」
 「ちぇ、本当なのにな。……それより森崎今日も昼は手作りなの?」
 「一応わたしもオンナノコですから」
 以前の森崎はいつも大学の購買部のおにぎりやパンだった。そのことで「森崎は料理ができない」とからかっていた。もちろん、まだ一年の森崎には必須科目が多くあり、料理どころではないほど忙しいのを知った上で、である。森崎とは同じ学部だ、レポートが山のように出されるということは去年の我が身が痛いほど知っている。
 それなのに森崎は「お弁当」を作るようになった。
 「どうして近頃弁当作ってくるようになったの?」
 「それはですね……どこかのうるさい先輩が料理できないできないってしつこいからです。黙られるには実際に作るのが一番効果的ですから。体にも良いし節約にもなるから別にいいんですけどね」
 「ひどいことを言う奴もいたもんだ、けしからん。成敗せねばならんな」
 「どの口がそんな台詞を吐くんですか……」森崎はやれやれとため息をつく。「だけどこうして毎日作ると料理の腕はかなり上がりましたよ」
 「たしかに森崎の弁当すっげえおいしそうだもんな。それに比べて俺の昼なんてコンビニのおにぎりだけだしな~、しかもオカカ。料理は目で楽しむなんて無理ありすぎ。ハァ、僕は悲しいよ……」
 「あげませんよ?」
 「ガーン!そんな!先輩想いのかわいい後輩だと思ってたのに!」
 「……嘘です。食べます?」
 「いいの!?」
 「いや、だって先輩あからさますぎますよ。どうぞ」
 森崎が差し出してくれた弁当はすでに半分ほどなくなってはいるが、おかずのバランスは良く、色合いも申し分ない。
 「どれ食べていいの?」
 「どれでもいいですよ。自信作は、自信作って言っても適当に作ったんですけど、コレです」
 「それではそちらをありがたくいただきますか」
 口に入れじっくりと咀嚼。せっかく森崎がくれたんだ。よく味わわないと罰が当たる。
 俺が飲み込むのを待ってから森崎が訊く。料理を作った人なら誰もが一度は必ず訊くこの台詞。
 「どうですか?おいしいですか?」
 「うまい!!おいしいよ!森崎、お前天才。ゴメン、正直見くびってた」
 「先輩大げさですよ」
 「いやいや、ホントにおいしい。味もよく染み込んでるし。朝の時間ない時によくここまで作れたね。少なくとも俺には無理だ」
 「褒めすぎですよ。だけどおいしいって言ってもらえるのは嬉しいです。……もう一個食べます?」
 「いいの?それじゃあ今度はコレ貰うよ。…………うまい!コレもうまい!」 
 「それは昨日の夕飯の残りです。さすがに朝に何品もおかずは作れませんからね」
 「俺も一人暮らしだから誰かの手料理食べるなんて本当に久しぶりだ。久しぶりすぎて涙出そう」
 「そこまで喜ばれると作った甲斐があるってものですね」
 「……麻美。俺に朝の味噌汁を作ってくれないか?」
 「先輩、それはキモいです。やめてください」
 「すみません。調子乗りました。だけど弁当はホントにありがとな。今度は俺がお礼に作ってくるよ」
 「全く期待しないで待ってます」
 森崎の弁当から離れるとコンビニのおにぎり君だけが俺の左手に残った。現実に引き戻される。人の温かみを味わった後だけに、余計冷たく感じる(温めていないから本当に冷たいのだが)。
 「先輩。しょんぼりしすぎですよ」
 「だって、森崎の手料理の後に機械が作ったおにぎりだよ。テンション下がらないのは嘘でしょ。森崎のおかず味わってないで一緒にかき込んどけばよかった」
 「そう言わないで。コンビニだっておいしいですよ。それが嫌なら自分で作るとか」
 「弁当男子ってやつですか……」
 それもいいよ、たしかにいいけど――
 「誰かに作って貰うのが一番おいしいよな、やっぱ」
 「だから作りませんってば。……おかずが余ったら今日みたいに少しあげてもいいですけど」
 「マジ!?」
 「あくまでも余ったらです。期待しないでください。そしてその希望を絶やさないためにもちょっと黙っててください。話してばかりでごはんが食べれません」
 
 
 「………」
 部室の読み飽きた漫画をペラペラとめくりながら俺はおにぎりの最後の一口を頬張った。
 「………」
 森崎家では「食事は静かに」の方針だったらしい。というか森崎は普段も自分からはあまり話さない。いつも相手の話を聞く側だ。森崎自身のことは話さない。だから森崎のことは実を言うとあまり知らない。――気になってしょうがないという心の叫びには懸命に蓋をしている。
 「………」
 「………」
 「………」
 「………」
 「……ぶはっ!駄目だ。喋ってないと死ぬ」
 「早っ。ってまだ三分も経ってないじゃないですか」
 「沈黙って苦手だ」
 「家にいるときどうしてるんですか?もういいですよ、ごはんもほぼ終わりましたし」
 「………」
 「喋らないんですか?」
 昼休みはもうあまり残っていない。二人きりの今、チャンスを逃す手はない。っていうか行け!「……来週だよな」
 「何がですか?」
 「いや何がって。来週からの冬休みだよ。森崎って予定とか立ててるの?例えばデートとか」
 遠回しに他の奴と付き合っているかの確認。茶化しながらじゃないと訊けっこない。
 「先輩に彼氏のことなんて仮にいても言いませんよ。すぐに広まりそうだし。ただ残念ながら恋愛イベントはなさそうです、バイト漬けですよ」
 よっしゃ!――チクリと痛むのは俺への森崎の信頼がつくづくないということ。少しずつでもいいから回復していかなくては。だがどうやって?
 「それがどうかしたんですか?」
 「暇なら何かしたいなぁって思ってさ」
 「いいですね。みんなで部室使ってクリスマスパーティーでもしましょうか」
 違うよ森崎、
 「二人がいいな」
 できる限りの真面目な声を出したつもりだ。
 壊れるかもしれない関係に怯えて腹を括るのに一週間かかった。
 「え?……またまたぁ、適当なこと言ってからかわないでください」
 今なら冗談ですませますというラインを森崎は引いてくれた。このラインを越えてしまったら――
 「真剣なんだけど」
 戻れない。
 「……マジなんですね?」
 「マジ」
 「そうですか……だけど先輩、こういう大切なことって昼の食後にすることじゃないですよね」
 ムードも何もあったもんじゃない。その声は照れているのか拗ねているのか、それとも怒っているのか。声色では今の森崎の感情は読めない。
 「なかなか二人きりになれる機会ってないんだよ。そこは森崎もわかってよ」
 「それじゃあそこは目をつぶります。…………………………初日は何も予定入ってないです」


 「で、何するんですか?」
 「悪い、誘うことだけで頭一杯で後のこと考えてなかった」
 「何ですかそれ」
 「断られるとばかり思ってたから。自分でもかなり分の悪い賭だと思ってた。森崎にはつまんないことばかり言ってたし、リアクションもいつも薄いしさ」
 「わたしそんなに冷たくしてましたか?本当に嫌だったら先輩の話にこんなにたくさん付き合ったりしませんよ」森崎はそこで一拍置き、「むしろ楽しかったです、わかってると思ってました」
 「そうだったの!?言わなきゃ!森崎そこは言わなきゃ!」
 「先輩が調子乗るの目に見えてましたから」
 「う……否定できない」
 「先輩っておだてられたらどこまでも昇って行きそうですもんね」
 「俺は褒められて伸びるタイプなんだよ」
 「いらない知識です。とにかく何をするかは考えておいてくださいね。そろそろ次の授業始まりますよ」
 結局昼休みは俺と森崎以外には誰も部室に来なかった。扉窓から中の様子を見て気を利かせてくれた?まさかね。二人きりになりたかった俺の願いが通じたのかな。
 
 
 俺も森崎も午後一番の授業があった。
 部室を出るときの戸締まりは先輩がする、これが我が部の決まりだ。
 鍵を閉めていると、
 「楽しみですね」
 とっさに振り返るが森崎はすでに廊下を歩きだしている。背中が心なしか嬉しそうなのは贔屓目だろうか。
 ずるいよ、不意打ちだし、何だよその声!反則だ。――めちゃくちゃ嬉しくなっちゃうだろ!
 急いで後を追うと森崎はクスクス笑っていた。
 「先輩って、簡単な性格ですよね」
 だけど楽しみにしてるのは本当です。別れ際の一言にも俺は舞い上がってしまった。……簡単な性格でした。

 
 授業中に森崎からメールが届いた。
 「一応参考までに訊きますけど、先輩の好きなおかずって何ですか?」
 教授の子守歌から一発で覚醒した。これでもかと列挙して返信する。
 数分後にメールの返信が来た。
 「その数は不可能です、自重してください」
 やりすぎたかと反省して再び送り返そうとすると気がついた。下にまだある。
 画面を下にスクロールしていくとやっぱりあった。
 「一度には無理なので、回数分けますね」
 だから反則だよ。
 席を後ろに選んでいて良かった。今の顔は見せられるものじゃない。
 
 森崎と何しよう。
 期待に満ちた冬休みまで、あと七日。




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返事、まだかな


 「おはよう、志木乃さん」
 朝、志木乃が下駄箱で靴を履きかえるのを見計らって浅井は声を掛けた。
 「教室だとアレだからさ、あの・・・昨日のことなんだけど」
 「おはよう浅井君。昨日のことは、ごめんなさい。もうちょっと待ってもらえるかな」
 「っいいよいいよ全然。ごめんな、急かしちゃって」
 
 昨日も「待って」と言われた。
 初めてだった浅井には待てと言われたら待つほか仕方がない。ただ、こういうものはすぐに返事がもらえるものだと決めつけていたので内心は動揺していた。
 志木乃は靴を履きかえ教室に向かってしまったが、浅井は級友に声を掛けられるまで下駄箱から動けなかった。

 
 昨日、木曜放課後、浅井は志木乃に告白をした。
 志木乃がいつも一人で下校するのはすでにリサーチ済みだった。人気がなくなるのを見計らって、浅井は志木乃に告げた。
 反応は「!」という感じだった。
 返事は「少し待ってもらえますか」だった。
 保留になるのもわからなくもないと浅井は思っていた。特別仲が良いわけではなかった。志木乃は浅井のことをただのクラスメイトと思っているはずだ。浅井が勝手に惚れ、勝手に絶えず教室での志木乃を目の端で追いかけていただけなのだから。振られなかっただけマシと思わなければならない。
 「それじゃあ、待ってるから。・・・できれば早めに返事聞かせてくれな」
 その日の夕食は浅井の喉をほとんど通らなかった。

 結局、金曜の今日は返事を聞けなかった。目が合いそうになると避けられてしまい、これには浅井もさすがに凹んだ。

 一週間が過ぎてしまった。返事はまだ聞けていない。
 さすがに振られたのだと思うのが妥当だろう。しかし目は未だに志木乃を追ってしまう。級友たちには最近本気で元気のなさを心配され始めた。体重は一キロ減った。

 二週間がたった。志木乃の返事は、まだない。
 心配、イライラ、そんなものは通り越し、すでにない。浅井は諦めた。普段の生活に完全に戻った。学校でバカして騒いで、腹一杯食事して、オナッて寝る。
 それでも、心の一部は志木乃に向かうことをやめなかった。
 
 二週間と一日が経った放課後、コンビニで立ち読みをしていた浅井は腕を突然「パシッ」と掴まれた。心臓が跳ねたが、掴んだ相手を見てさらに喉元まで跳ねた。
 「志木乃さん?一体どうしたの?」
 「浅井君、ちょっといい?」
 少年誌で良かったと浅井は戦慄ながら志木乃に連れられ月極の駐車場にまでやって来た。
 「あのね、遅くなって本当にごめんなさい。遅くなったけど浅井君に返事、します」
 「いいよ、もう。こっちこそごめんなさい。あのときは突然すぎたよね。自分勝手でした」
 「誤解しないで、・・・私も浅井君こと好きだよ」
 「そう・・・えっ!ホント!?」
 「たしかに告白は突然だったかもしれないけど、浅井君が私のこと意識してることは知ってた。あれだけ私のことを見てたら嫌でも気付くよ」
 「気付いてたんだ」
 「うん。ていうかクラスの女子みんな知っていると思う。浅井君バレバレなんだもん」
 「うそぉ!?」
 「本当。だけど告白されたことは言ってないよ。だからみんなそのことは知らない」
 「そっか・・・まだ救われるよ。ーーだけど俺が志木乃さんのこと好きなの知ってたならなんで返事こんなに遅くなったの?こんなこと聞くの変だけど、返事を用意できてたと思うんだけど」
 「それはね・・・浅井君のことは確かに好きなんだけどね・・・冷やかされるの、嫌だったの。浅井君って明るくてみんなに好かれてるけどその分イジられやすいでしょ?だからもし私たちが付き合うことクラスのみんなに知られたら絶対からかわられると思ったの。そしたらなんだか怖くなっちゃって。浅井君になかなか返事言い出せなくなっちゃったんだ。ごめんなさい・・・」
 「そっか、俺ふざけてるところあるからなぁ。からかわれたり冷やかされること確かにあるかもしれない・・・」
 「ね。それが私嫌だったの」
 「じゃあさ、ふざけるのやめて、これからはマジメになるよ」
 「無理でしょ・・・。それに、そんなの浅井君じゃないし、私は嫌だよ」
 「だよな。俺も嫌。それじゃあ行けるところまでは秘密にするってことでいいかな」
 「たぶんすぐバレちゃうと思うけど・・・その方向で」
 「それでは改めて言います。志木乃さん、好きです。付き合ってください」
 「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 
 「ところで志木乃さんは俺のどこが好きなの?」
 志木乃を自宅に送る帰り道、言ってからこの質問の恥ずかしさに浅井は気付いた。
 「クラスを楽しくしてくれるし、男子とほとんど喋れない私にも気軽に話しかけてくれるとこかな。浅井君は?私のどこを好きになったの?自分で言うのも悲しいけど、私クラスでも地味な方だし、男子から暗いって思われてるのも知ってる」
 「そうだな~、百個くらいあるかな」
 「浅井君のそういうところがいいんだよ」
 言いながら目を逸らす。ーーやばい、私、雰囲気に飲み込まれてる。
 「それじゃあまずは俺が志木乃さんに惚れたキッカケからーー」


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