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猫とビールと我輩と4

この白猫は客たちから猫ジイと呼ばれていた。「面接をする」と

カウンターの奥の個室に通されるとき音子は客たちの声を聞いていた。聞きながら

自分自身の環境適応能力の高さに驚いていた。いや、もしかしたら頭のヒューズが

飛んでしまったのかもしれない。何しろ相手は猫だ。二本足で歩いておまけに喋る。

音子の人生でそれは空想の世界の話であって、現実の世界で起きることはもちろん

一度もなかった。

個室はほとんど商品在庫に場所をとられており、2脚の椅子と机(もちろん小さな

猫サイズ)くらいしかスペースはなかった。音子はその椅子を勧められたが丁寧に

お断りした。人が座れるとは思えなかったし、自分が座ってもし壊れでもしたら

乙女心に深い傷が残る。猫ジイのほうは椅子に深く腰掛け熱心に音子を

見つめていた。

「面接を始める前にもう一度確認するが、お嬢ちゃん本当にあの広告を見て

この店に来たんじゃな?」その問いかけに音子はうなずく。

「そうか。実はのぅ、あの広告は普通人間には見えないんじゃよ。広告というよりも

貼ってある掲示板そのものが見えはしないんじゃ」

「 え?けど普通に私には見えていましたよ?」

「友達に聞いてみなさい。そんなものどこにもありはしないと白い目で見られる

のがおちじゃよ」

自慢ではないが嘘を見破るのが音子は自分でも得意だと思っている。いつもは人で

猫では今回が初めてだが、それでも猫ジイが嘘をついているとは思えなかった。

「それじゃあ私、どうして見えたんでしょうか?」

「わからん。だがある意味では才能かもしれんの。それにお嬢ちゃんが最初というわけ

でもない。あれは確かわしがこの店の店長になりたてのことじゃから・・・50年くらい

前かの。そのときに一人やって来たことがあったよ」

「50年前!?そんな昔に!?」50年前といったら大学創立してまだ間もない頃だ。

「あれ、けど猫の寿命って・・・」

「猫を舐めるんでないわい」猫ジイはニヤリと笑みを浮かべている。

深く考えるのはよそう、これ以上の不思議は音子の頭をいたずらに混乱させるだけだ。

「けどどうして大学の敷地になんかに掲示板を置いたんですか?人には見えないのに」

「大学はいい。車は走らないし、弁当の余りをワシら猫に与えてくれる。だから食べ物にも

困らん。野良猫が多いの、気付かんかったのか?そんなわけであの掲示板は本来

ヒト用のものではなく、ネコ用のものなんじゃ」

そういえば猫、たしかに多く住み着いていた気がする。

「話が脱線してしまったの。とにかく面接を始めるとしよう。なぁに、お嬢ちゃんがヒトであっても

かまいやせんよ。ワシはそんな小さいことにはこだわらん。とにかく今は人手不足での。

困っていたんじゃ」

小さいことなのかしら。音子の常識からすると考えられないことだったので、そこは聞かなかった

ことにした。

猫ジイの話によると最近まで若いオス猫が働いていたそうなのだが、ある日ぱたりと姿を

見せなくなってしまったらしい。「猫の習性みたいなものじゃからしょうがない」 猫ジイは

笑っていた。とにかくそのオス猫がいなくなってしまったことで、一匹で店をまわさなければ

ならなくなってしまい、若いころならまだしもこの年齢ではさすがに賑わう時間帯は

厳しいとのことらしい。そこであの広告を貼り出したという。

面接は働ける曜日、時間、経験など基本的なことしか聞かれなかった。まるで人間がする

本当(?)の面接のようだった。

音子が条件を満たしていることを確認すると、猫ジイは採用と即決した。

「いいんですか。こんなに早く決めちゃって。私としては嬉しいですけど他に希望する猫?

が現れたらどうするんですか?」

「来やせんよ。猫という生き物はの、基本的に働くことが大嫌いなんじゃ。だからアルバイト募集の

広告もまったくといっていいほど期待していなかった。だが、ヒトであるお嬢ちゃんが

見つけて来てくれた。これも何かの縁じゃろうて。だからお嬢ちゃんでいいんじゃよ。それに

言ったろ?人手不足で困ってるんじゃよ。一刻も早く手伝いが欲しいんじゃ。のんびり待ってなど

おれんよ」

面接が終わり今日はこれで帰ることになった。

「あの、どうやって帰ればいいんですか?」

音子は心配になってきた。そうだ、自分は大穴から落ちてきたのだ。どうやって来られたかも

わからないのに帰り道がわかるわけがない。音子の心配をよそに猫ジイはあっけらかんと

している。

「心配することはない。ほら、ここから帰りなさい」

そう言うと猫ジイは店にある一つの扉を指差した。

「ここからもとの場所に帰れるから安心しなさい。そして来るときはまたあの場所に行きなさい。

今度はお嬢ちゃんにも入り口が見えておるはずじゃから」

音子が緊張しながらその扉を開いてみると、真っ暗だった。何も見えない。音子が不安そうに

猫ジイに振りかえると、猫ジイは「大丈夫じゃよ」と言うようにうなずいていた。

「それじゃあ失礼します」思い切って暗闇に足を踏み出す。落ちた。またしても音子は落ちて

いく。

「落ちてばっかりね、私。それにしても落ちてきたのにまた落ちるなんて本当に帰れるのかな」

すでに驚愕な出来事をたった一日で何度も経験した音子にはこのくらいのことでは

(ただの麻痺といえるのかもしれないが)驚かなくなってしまっていた。

最初に落ちたときは恐怖と混乱しかなかったが、今回は違う。多少の不安はあるが落下中

これからのことを思うと音子はワクワクしていた。どうやら自分はあの不思議な場所に

魅了されてしまったらしい。早くあそこで働いてみたい!



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COMMENT

はじめて訪れました。和哉です。
いやあ、いいですね、これ。
自分はホラーとか性悪説に基づいた人間ホラーばっかり書いてmすが、こういうほのぼのしたのも実は好きです!

なんだか、これを映像化したらジブリの匂いがしそうですね。もちろん、良い意味で^^
よかったら、私のブログにも遊びに来てください。ホラーとゾンビ(ネタ)を書いてます。もし気に入っていただけたら、相互リンクやブロトモなんかもお願いしますノ
また近々遊びにきますね^^ノ

2009.10.29| URL| 和哉 #- [編集]

Re: タイトルなし

和哉さん、訪問ありがとうございます。

褒めていただき光栄ですw
この話、ここまで書いといて続きを書いてないんですよね~(苦)
何でだろ?

ですが!和哉さんに評価してもらったので、チョロチョロまた書いていこうかと思います。
そうさせてくれた和哉さんに感謝です!

僕のほうも遊びに行かせてもらいますね

2009.10.29| URL| ホチ #- [編集]

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