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夏祭り、夏の感触

 ああ、――誘ってよかった。
 人混みの中こちらを見つけ歩いてくる夏本の浴衣姿は見慣れているいつもの姿とは違いとても新鮮で、夏祭り特有の明かりが手伝っているせいなのか輝いて見えた。いわゆる「三割増し」どころの話ではなかった。しかるべき場所にはしかるべき服装があり、夏祭りといえば浴衣。これぞ日本の美。浴衣を考えた昔の人は偉大だ。
 「おまたせ~」
 夏本は待ち合わせ時間通りにやってきた。俺はというと緊張のせいで十五分も前からここに来ている。
 「どうこれ?似合うでしょ。まぁこの浴衣に決めるまですっごい悩んだから似合うって言ってもらわないと困るんだけどね。それで、どう?」
 「うん、超似合ってる。スッゲー綺麗」
 なんという普通コメント。もっと気の利いた言葉が世の中にはたくさんあるはずなのに。語彙力のなさに日頃の勉強不足を恥じた。
 「そうそう。そうでなくっちゃ」
 それでも夏本はどうやら満足し喜んでくれたみたいで楽しそうにくるっと一回転して魅せてくれた。一つに結わえられた黒髪は、主人の動きに少し遅れ気味に後を追っている。
 (うなじは○○だ!)と一部の人は称えているが、気持ちがわかった。あれって本当だ。たしかに、いい。普段隠れているものが突然姿を現すとドギマギしてしまうが、うなじもそんな感じだ。
 浴衣姿の夏本に見とれると同時に目に焼き付けながら思った。今日こそは。
 次のステージに。今のふたりの関係は曖昧だ。夏祭りという特別な日に、夏の神様、きっかけだけでいいです。起こしてください。――あとは自分でなんとかします。
 
 会場は公園全体。この界隈ではそれなりの規模を誇る夏祭りだった。
 「なにする?」夏本が聞く。
 「まずは腹ごしらえ、かな。定番のわたあめとか。そっちは?」聞き返す。
 「こっちも定番かなー。金魚すくいしたい」
 「これだけ夜店が連なってるんだからどっちもすぐに見つかるでしょ。子供の頃は小遣い気にしてたけどさ、今日はけちらずじゃんじゃん使っちゃおう」
 「あ、早速発見」夏本が指さす。
 口のまわりはべたつくし、下手をすると手までべたつく。だけどどうしても買ってしまわずにはいられないわたあめにはきっと魔力が備わっている。今もこうしてふたりとも食べているがやっぱり甘い美味しいやめられない。
 「これ食べなきゃ始まらないよね」
 夏本も甘い甘いと顔をほころばせる。
 ふわふわしたわたあめを早々に細い一本の割り箸にしてしまうと、今度は香ばしい香りが漂ってきた。
 「うわっ、焼きそばか~。これまた定番。食せねば」
 「だね。だけど私はいいや。そこまではお腹減ってないし」
 「わかった。それじゃあ買ってくるからちょっと待ってて」
 幸運にも出来立てのようで熱々だ。たまにある冷めたそれではないようだ。
 「お待たせ。それと、はい。夏祭りの飲み物といったらやっぱこれでしょ」
 「ラムネ?懐かしい!ありがとー!」
 今日のために設置されたベンチに腰を下ろして食べたのだが、この焼きそば、もやし多すぎだろ!麺との比率が同じじゃねーか。夏本には「それも祭りクオリティ」と同情もそこらにからかわれてしまった。
 食べ終わったばかりだというのに今度はかき氷に飛びついてしまっている。
 「なぁ、続けて冷たいものでお腹冷えない?」
 「大丈夫、胃腸が強いのも私の自慢のひとつなんだ。それよりこれ見て」夏本はべえっと舌を出した。
 「俺だって、ほら」
 互いの青と赤になってしまった舌を見せ合い、かき氷の交換をする。この行為、なんだか無性に恥ずかしく思えてきた。けど駄目だ。楽しい。
 「あ、金魚すくいだ」
 「きた!やろう。今すぐやろう」
 有無を言わさず夏本はスタスタ向かっていく。
 「金魚すくいそんなに好きなんだ。実は俺やったことないんだよね」
 「ほんと!?なんで?」
 「捕るのはいいけど、そのあと家で飼わないといけないでしょ。それが嫌でさ」
 「返しちゃえばいいのに」
 「それありなの?」
 「いいでしょ。私ずっとそうしてきたよ」
 「そうなんだ。それならやっておけばよかった」
 「今するんだからいいじゃん。おじちゃん、二人分ね」
 おっちゃんから薄い紙を張った針金の輪、ポイを受け取ると一匹の金魚に狙いを定めた。
 「あ~、だめだ」
 何度も挑戦する理由がわかる。すぐにポイが破けたにもかかわらず、なぜか次は穫れるような気がするのだ。
 「うっわ~、センスないね!よく見てて、こうするの」
 センスなのかは不明だが確かに夏本は上手で、あっと言う間に五匹もすくい上げてしまった。隣の男の子も羨望の眼差しで見つめている。
 「こんなもんね。おじちゃん、ありがとうございました。金魚返しますね」
 もう一度挑戦してはみたが駄目だった。さらにもう一度、というときに「来年の課題にすれば」と止められてしまった。金魚たちよ、待っているがいい。
 残念ながら射的はできなかった。小学生のちびっ子たちが白熱の戦いを繰り広げていたから。そこに割り込んでいくほど大人気なくはないし、もしそこで一つも撃ち落とせないなんてことが起きればお兄さん、格好悪すぎるもの。

 祭りを満喫し歩いていると夏本がある夜店の前で足を止めた。輪投げだ。
 「どうしたの?欲しい物あった?」
 床一面に広がる景品の最奥を夏本は凝視していた。
 「アレ欲しい!」
 ゲーム機本体ですか。目玉となっている景品は大人の事情で穫れないようになっているんじゃなかったっけ。
 「難しいんじゃない?俺ああいうの穫った人見たことないよ」
 「けど前から欲しいかったし・・・・・・。やってみる」
 的は小さいし、周囲の景品が邪魔をしている。案の定夏本は五回のチャンス全て逃してしまった。
 「しょうがないよ。あれはムズすぎる」
 「・・・・・・あのさぁ」
 夏本は諦めきれないのか、こちらを見ずにまだゲーム機を眺めている。
 「もしアレ穫ってくれたらキスしてあげよっか」
 夏本がこちらを振り向く。向いた夏本が俺の顔を見てハッとした。
 「なんてね。うそうそ。冗談よ」
 「そんなのわかってるって。・・・・・・だけどそんなに欲しいなら駄目もとで俺もやってみようかな」
 三百円を渡しておっちゃんから輪をもらう。チャンスは五回。
 男って呆れるほどバカだ。笑って誤魔化したが、例え冗談でもキスの一言でこんなにもやる気を出すし、驚くほど真剣になっている。

 「あっ」
 ハモった。
 三回目、穫れてしまった。

 まさか穫れてしまうとは。おっちゃんが「まいっちゃうよ」と景品のゲーム機を渡してくれた。隣の夏本の顔には大きく「どうしよう」と書かれていた。
 「はい。これ二万円近くするし、相当得しちゃったな。・・・・・・あー、さっきのは気にしなくていいし、しなくていいから。それよりもさ、俺もこれ持ってるから今度ソフト買って通信対戦しようよ」
 夏本は無言のまま景品を受け取った。
 その時、太鼓の音が鳴り始めた。
 「あっ、そろそろ盆踊り始まるみたいだ。行こっか?」
 音がする会場の方に気を取られたとき、頬に感触があった。すぐそこには夏本、距離はなくなっていた。
 無言のままお互いの目を観たのはどのくらいだろう。心臓が太鼓の音をかき消すほど早鐘を打ち何も思い浮かばない。それでも何か言おうとしたとき、夏本は俺から目を逸らし、先に声を出した。
 「約束しちゃったから!しちゃったからにはするしかないでしょ!――ありがたく頂戴してよね」
 「・・・・・・うん、ありがとう。たぶん俺一生忘れないと思う」本当はたぶんじゃなくて絶対。
 「忘れられたらこっちだって困るわよ。ほら、盆踊り行くんでしょ」
 互いに隣を歩くことに照れてしまい縦になって歩いていると、後ろの夏本が俺の背中をつついてきた。
 「私もかな」
 「何が?」
 「私もたぶんさっきのこと忘れないと思う」
 
 「ねえっ!」
 「うわっ、何さ」
 「にやつかないでよ。気持ち悪い」
 「マジ?そんな顔してた?」
 「してたじゃなくて今もしてる。・・・・・・だからやめてってば」
 ――ごめん。それたぶん無理。


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COMMENT

はじめましてー!黒目と申します。
コミュニティの更新通知からお邪魔させていただきました!

>夏の神様、きっかけだけでいいです。起こしてください。ーーあとは自分でなんとかします。

この部分好きです。
「あとは自分で」っていうところに男子のちょっとしたプライド的なものが。共感。笑

今年は夏祭りいけなかったんで、この小説でいろいろとニヤニヤさせてもらいましたっ。笑
ごちそうさまでしたー!

2009.08.30| URL| 黒目 #- [編集]

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